インタビュー

『しごとマルシェ』を通じて「香川で働く 香川で暮らす」魅力を伝えたい 


株式会社しごとマルシェ

飯原美保

2019年7月18日(木)

総合求人サイト『しごとマルシェ』の運営に携わり、「働くママコラム」を担当している飯原です。高校卒業後、県外の大学に進学し、国際協力分野で働いていたのですが、2010年に香川県にUターンし、今に至っています。今回は、働くママとしてというよりも、Uターンで香川に戻ってきた一人の人間として自己紹介も兼ねて綴ってみました。

香川から飛び出したいと思って海外で働いていた自分自身が経験したこと、その経験を踏まえて学んだこと・感じたことが地元へのUターンを少しでも考えている方の参考になればと思い、これまでの道のりと今の仕事に対する想いも含めて紹介させてください。

香川から県外へ
香川県の西の端、観音寺市豊浜町で育った私は、毎日のように海を眺めながら、この小さな島から飛び出したいと願っていました。

理由は二つ。ひとつは、四国でいることに閉塞感を感じていたからです。瀬戸大橋がなかった頃は、岡山に行くために、わざわざ高松まで出て船に乗らないといけない。遊びに行く場所もない、こんな島は嫌だと思っていたのです。

 

そしてもうひとつ。
高校時代に、ブラジルで井戸を掘る海外協力青年隊の手記を読み、あこがれを持つようになったのです。「カッコいい!四国から世界に飛び出すんだ!」そんな想いを募らせるようになり、高校3年生の時には、いずれ海外で仕事をしようと決め、立命館大学の国際関係学部に進学しました。


日本から世界へ
20歳で初めて海外に行き、フィリピンで体験したことは、後々の人生に大きな影響を及ぼしています。そこで見た外国の現実は受け入れがたいものでした。

 

ごみの山であるスモーキー・マウンテンでプラスティックや缶を拾い、それらを売って暮らす子ども達。思わず鼻を覆いたくなるような異臭が蔓延している中で、暮らしている家族も多くいました。宿泊したスラム街では、上下水道や電気、ガスなどが整備されておらず、トイレもない状況。フィリピンでの一番多い疾患は下痢症で、1歳を待たずして命を失う赤ちゃんが多いということも知りました。

「同じ人間なのに、生まれた国が違うとこうも違うのか。」「ひとりの人間の命の価値すら違うのか。」と、かなりのショックを受けました。

 

日本に帰国しても、フィリピンで出会った子ども達のことを思い出す度に涙が止まりませんでした。「なぜ国によって大きな差があるのか、南北問題やアジアについての知識を深めたい」と思うようになり、韓国、アメリカ、オーストラリアへも留学し、主に国際関係について学びました。


村にある水タンクの水を使って洗濯をしている女の子(ネパール)

国際協力の仕事で見えた、地域間格差
卒業後は特定非営利活動法人アムダ、アイシーネット株式会社(国際協力コンサルティング会社)、JICA四国など国際協力分野で働きました。10年程の間に、ネパール、ベトナム、インドネシア、ガーナに長期で赴任し、その他様々な国々で仕事に取り組みました。


電気・ガス・水道などのライフラインはなし。移動手段は徒歩もしくは牛か馬を利用していた。(ベトナム)

20キロ以上のキャッサバを頭の上に乗せ、市場まで1時間以上かけて運ぶ女性たち(ガーナ)

専門分野が地域開発・地域保健だったため、途上国の中でも、特に地方を訪れることが多くありました。先進国と途上国の経済格差については知っていましたが、途上国内で都心部と地方間の格差は想像以上!

 

首都では携帯電話も普及し、日本とほとんど変わらない生活環境でした。一方、地方においては、水道・電気・ガスなどの基本的なライフラインすら整備されておらず、医療や教育など基本的な公共サービスも提供されていないという現状でした。


村の保健ボランティアの女性たちが活動的で、彼女たちの力が予防接種や手洗いなどの啓発活動に大きかった(ガーナ)

「頭脳流出」という課題
途上国内の地域間格差を助長していたのが「頭脳流出」でした。地方では、家族を養える程の仕事がないという理由で、多くの優秀な若者が都心部もしくは海外へ出稼ぎに出たり、移住していました。例えば、地域保健分野では、地方での医師不足は深刻で、最低限の医療サービスさえ受けられないことが大きな問題となっていました。

 

そんな中、持続可能な開発のために欠かせないと実感したことがあります。

それは、「人」の存在。

その地域を良くしたいと強く願う「人」がいて、その「人」が地域に根差して活動することが一番のキーファクターでした。

 

また、国連の開発目標である『持続可能な開発目標(SDGs)』の中には、「経済成長と雇用」という項目があります。「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」ことが掲げられています。

 

つまり、途上国の地方においては、「人」の流出が発展の妨げとなっており、「人」が定着するための取り組みが大事でした。

日本の地方が抱える共通課題

「頭脳流出」という課題は、日本の地方でも同様に深刻な問題となっています。香川県では、高校卒業後に約8割は県外に進学・就職し、そのうち、戻ってくるのは2~3割。20~40代の人口割合は全国平均以下、特に20代の人口割合は全国平均を大きく下回っています。そのため、地元企業の人手不足は深刻です。最近では、人手不足倒産という言葉が使われるようにもなり、「頭脳流出」は企業の衰退・倒産に繋がる深刻な問題となっています。


そのため、日本の地方創生に必要な要素も「人」です。
地元企業という地域資源を活かし、持続可能な発展のためには「頭脳流出」という課題解決に挑む取り組みが大事だと感じています。

途上国のへき地から日本の地方へ
私自身、途上国での地域開発から日本国内の地方創生に関心がシフトしたきっかけは、『夕張市の財政破綻のニュース』でした。

 

途上国に赴任していた時に耳にし、ショックを受けたことを覚えています。日本の地方では少子高齢化が進んでいるというのは知っていましたが、まさか財政破綻する行政が出てくるなんて・・・と驚きました。そして、地方から都心部への人口流出の加速も進んでいると知り、自分自身も人口流出の一端を担っていることに気づいたのです。

 

故郷である香川に恩返しできないまま、この仕事を続け、一生を終えるのかと悩むようになりました。でも初めのうちは、香川県に戻ってくることは想像すらできませんでした。当時は、香川県の求人サイトは限られており、語学やコンサルティング経験など、国際協力での仕事を活かせる仕事は香川には無いと決め込んでいたのです。

 

そんな折、父からこんな話を聞かされました。「香川県では若者が次々と県外に出てしまっている。若者が働きたい、暮らしたいと思えるような地域づくりをしていかないといかん。そのためにも、求人情報以外にも地域の魅力を発信していきたいと考えている。」と。

その話を聞き、心を動かされたのです。父の言葉が、故郷である香川のために何かできないか・・という私の想いと合致しました。38歳の時、父が運営していた株式会社求人タイムス社への入社を決意しました。

 

「香川で働く、香川で暮らす」
2017年には、株式会社求人タイムス社から株式会社しごとマルシェとして分社化し、香川県に特化した総合求人サイト「しごとマルシェ」をスタートさせました。「香川で働く、香川で暮らす」をテーマに、香川の求人情報だけでなく、香川で暮らす魅力もコラムを通して発信しています。県外進学者のUターン促進にも取り組みたいとの想いから、新卒求人やインターンシップの情報発信も2018年から行っています。

 

そしていま、企業の情報発信力の差が、人材の採用力にも直接的に関わっていると感じています。地域創生には雇用促進が何よりも大事なので、「しごとマルシェ」の情報発信力を強化しながら香川県内の求人情報をメインに発信し企業と人を繋ぐ取り組みを続けていきたいと考えています。