インタビュー

「生きる意味、働く意義を子ども達から教わる日々」


香川県立高松養護学校

校長 出射隆文 さん

2016年9月2日(金)

今回、お話をお伺いしたのは・・・香川県立高松養護学校 校長 出射隆文 さん
身体障がいを持つ子ども達が通う香川で唯一の学校が高松養護学校。現在、108人の子ども達が本校で学んでいる。

2年前に高松養護学校の校長先生として着任した出射校長に、学校のことや教育のこと、また、仕事についても話を伺った。

Q.養護学校に着任して、どのようなことを感じていますか?
- 我が校に着任する前は、10年間教育委員会にいました。教育現場からしばらく離れ、戻りたい
という気持ちが大きかったので、学校に戻れたのは嬉しかったです。ただ、自分の担当科目の
教員ではなく、特別支援学校の校長としての復帰だったので、最初は不安もありました。

 

また、特別支援教育は「教育の原点」だと言われており、「教育の原点」とはどういう意味だろうか
と思っていました。一般的には、それぞれの障がいのレベルに合わせた教育をするという意味で
「教育の原点」だと言われています。個人個人に合った教育をすることが教育の原点として大事
だという意味で。

 

しかし、私が感じたのは、教員たちが子ども達から教わる場という意味での教育の原点だと感じ
ました。障がいがありながらも一生懸命生きている子ども達に毎日接することによって、生きる
ことの大切さや命の尊さを教わりました。

 

この学校に来て、私は教員としても人間としても大きく成長させてもらったし、自分の中に変化が
生じているのを感じます。

 

Q.日々、心がけていることはありますか?
- 笑顔を大事にしています。言葉を発することができない子どもや表情が無い子どもも、にこっと
笑って優しい言葉をかけるとちゃんと伝わるのです。どれだけ重度の障がいがあっても。
障がいがある人ほど空気を読む力が敏感なんです。

 

英語で笑顔はスマイルですが、スマイルの後にSを作ると、smilesとなります。SとSの間にmile
ができ、世界で一番長い単語になるんです。みんながスマイルになると、周りの人達にも伝染し、
1マイル(1.6キロくらい)先にもスマイルが広がるんじゃないかと思っています。

 

Q.仕事上で大変なことはありますか?
- 組織として目指すものを方向づけることですかね。それを明快にしなければ、そこで働く人たちは
何をどう頑張っていいのかわかりません。トップとしてその方向を明らかにすることは重要な役割
だと考えています。

 

「大変」という言葉はすごく好きですね。大きく変わると書きますが、大変なことこそ、大きく変われる
チャンスなのです。そのように捉えれば、大変なことは自分自身の成長になります。失敗が怖いから
と、挑戦をしなければいつまでたっても変われる日は来ません。 また、「楽しい」と「楽」は違います。
苦労しないと楽しいものは生まれません。そういう意味で職員や生徒が自分で考え、チャレンジする
方向に持っていけるように心がけています。

 

Q.どういう学校にしていきたいと思っていますか?
- 日本一いい学校にしたいと思っています。いい学校とは何かと言うと、子ども達にとっていい教育を
受けることができる学校です。子ども達にいい教育を提供するためには、先生方にとっても働きやすい
職場を作ることが大事だと考えています。

 

また、我が校では、ICT(タブレット端末、スマホなど)機器を使った肢体不自由の子ども達への教育を
進めていて、日本のトップクラスになっています。ICTを使ったOAKシステムを東大と共同で研究を
進めているのですが、瞬きしかできない子どもが扇風機をONにしたりできるシステムがあるんです。
そのようなICTを特別支援教育に活かしたいと思っています。

 

Q.文部科学省が推進している「生きる力」についてどう思いますか?
- 稲盛和夫の「生き方」という本を読んでからは、生きることは働くことだと感じています。
「働かなくてもよい状態になった時にどうするか?」が生き方を問われるのだと思います。私は、自分が
生きている存在として自分よりも周りの人達をハッピーにすることが大事だと思っています。誰知れず
何かに役立っているということが生きていることを示しているのだと思うのです。そのため、生きる力とは
働く力だと思います。

 

Q.若い人達にメッセージを一言お願いします!
- 「働くこと」とはどういうことかと言うことをきちっと見極めて欲しいですね。自分のやりたいこと=仕事は
理想かもしれませんが、与えられた仕事をいかにプロ意識を持って周りに喜んでもらえるように取り組め
るかが生きる力であると考えています。

 

実は、私は教員になりたくてなったのではないんです(笑)。地球物理学(地震)を専門に研究し、研究者
を目指していたのですが、縁あって教員になり、与えられた場所で頑張ってきただけです。

 

自分がやりたいことを仕事としてできるのは幸せですが、その仕事でいかに頑張るかが大事だと思います。
どんな成功者でも、いろんな壁にぶつかり、その壁を乗り越えようと頑張った経験を持っています。壁にぶち
当たったとき、そこで頑張れるかが人生を大きく変えるんだと思います。

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Profile
出射隆文

 

1960年6月9日生まれ。53歳。丸亀高校出身。京都大学理学部卒業。
同大学大学院では地球物理学専攻。昭和60年より高校教諭として勤務。
平成14年より香川県教育委員会事務局高校教育課で10年間勤務。
平成24年より高松養護学校長を務める。

趣味は食べること、スポーツ、ドライブ、読書。

 

香川県立高松養護学校
香川県高松市田村町1098番地
Tel: 087-865-4500
Fax: 087-866-4916
http://www.kagawa-edu.jp/takayo01/
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*この記事はインターンシップ中の以下の大学生5名の協力により書かれました。
香川大学 教育学部 3年 東 正治
経済学部 3年 木村 旬
経済学部 3年 島村 悟史

高知工科大学  マネージメント学部 3年 河田 梓沙
Wiesbaden Business School, Wiesbaden Vacheh Shirvanian