インタビュー

セネガルでの経験が地元香川に戻りゲストハウスを営むきっかけに


ゲストハウス若葉屋

若宮 武

2021年6月1日(火)

若宮武さんは高松市に生まれ、大学進学で大阪へ。一度就職し、青年海外協力隊としてアフリカのセネガルで2年間活動。現在は香川にUターンして若葉屋というゲストハウスを運営しています。若葉屋は、瓦屋根で木造、名前からしても古風。にもかかわらず、海外旅行者向けサイトでの評価も高く、外国人からの人気も高い(コロナ以前)。そんなゲストハウスを運営する若宮武さんに、香川に戻ったきっかけや、香川で暮らしながら感じていることなどをお聞きしました。

――遠くアフリカで働いていたのに、地元香川に戻ろうと思ったのは?

地元の人にはかなわない、と痛感したことが大きいですね。当時、絵に描いたようなアフリカの村で青年海外協力隊として村落開発に携わっていました。ローカルに行けば行くほど、外国人である自分にはわからないことがたくさんあって、地元のセネガル人に任せた方がうまく進むことが多かった。習慣や文化を理解しているからこそ分かること、できることの大きさを改めて感じましたね。

 

また、家畜を診る獣医とか、村の配管工のおじさんたちの姿を見ていると、彼らの生業がその土地の暮らしを作っていることを実感しました。商売としてやっていたら、自然と地元の人たちのためになっているんですよね。自分が国際協力としてやろうとしていたことを、この土地の人たちが生業として既にやっている。自分も地元民として地域に関わる仕事がしたいと思うようになりました。

 

セネガル人の生活スタイルの影響も大きいです。セネガルでは家庭と職場がほぼ同じで、近所の人たちとの繋がりが深く、家族ぐるみの付き合いをしています。地元に根付き、家族を大切にしながら暮らすセネガルのおやじたちに憧れを抱きました。

――なるほど!セネガル人の暮らしに触れることが、地元に戻るきっかけになったのですね。

そうなんですよ。「地元民として地域で生きたい」「家庭と職場がイコールのような仕事をしたい」という思いが「地元・香川に帰りたい」という考えに繋がりました。香川で何をしようかと考えたときに、妻も私もバックパッカーとして様々な地を旅行してきたことから、自宅兼ゲストハウスをやろうと決めました。

 

――ゼロから自分たちでゲストハウスを始められたときの、苦労は?

「苦労」って感じたことはないですね。好きでやっているので、なにがあっても面白いです。連泊のお客様が多いので、「一緒に組んだスケジュールのおかげでうまく周れたよ!」とフィードバックを貰えるのがうれしいですね。自分が旅好きだからこそ、お客様の喜びも分かるんです。

 

チェックインの時に一時間以上話し込むこともしょっちゅうで。島めぐりをするお客様に航路や美術館の情報を伝えながらスケジュールを組む「作戦会議」をするのが定例です。「近所で食事をしたい」と言われたらお客様の要望に合わせてなじみのお店をご紹介しています。自分の地元で、顔がわかるからこそできるご紹介を心がけています。

 

――細やかにお客様のことを考えていらっしゃるのですね。そこまでしてくれるなんて!

それがゲストハウスの醍醐味ですね。自分はこの町のこと、瀬戸内のこと、同じような話を一日に何回もしていますが、お客様はものすごくワクワクして来てくれている。その期待に絶対にお応えしたいです。自分の地元だからこそ楽しんでもらいたい、この町を好きになってほしい、って力も入りますね。「香川にもっと日程をとっておけば良かった、また来ます!」と惜しみながら帰られる方もいて、その度に、よっしゃーって思います(笑)。

――香川での暮らしはどうですか?

香川って、「ちょうどいい」ところです。田舎過ぎず、都会過ぎず、海もあるし山もある、人との距離感もちょうどいい。商店街で知り合いに会うことがあっても、村社会っていう程じゃないですね。高松はぱっと見上げると空の面積が広いし、海の気配がある。見えないけれど、気配があるって落ち着くんですよ。

 

香川は常に仕事もあるし、そんなにお金もかからず、これまで大きな災害もほとんどありません。公園も多く、子育てもしやすい。人口規模は大きくありませんが、ある程度の機能が集中していて暮らしやすいです。

 

――不便さを感じることはないですか?

「田舎に行くと不便」ってよく言いますが、何を不便と思っているのかな、と思うことがあります。例えば、都会ではお給料は高いけれど、通勤が大変だったり、家賃など生活費が高くて、何のために働いているのかわからない生活になることもある。年収一千万の仕事をして、そのために自分の生活を削ったり、プレッシャーと戦ったりと割に合わない暮らしをするくらいなら、今の生活の方が私にとっては幸せです。生活に必要なお金があれば、必要十分なんですよね。

 

実は、地方暮らしに必需品の車も持っていません。これといった浪費もしてなくて、コロナ前は毎年大好きな海外旅行にも行けていました。高松空港は街中からバスで30分程度。高松空港から直行便で行ける香港をハブにして、海外旅行を楽しんでいましたね。地方にいながらも世界に繋がりやすいと感じていました。

 

――若宮さんにとって理想の暮らしとは?

今が100点満点ですね。自分の理想の暮らしがここにあります。家にいながら仕事をして、夕方に帰ってくる家族を出迎えることができる。ゲストハウスの仕事は拘束時間が長いですが、自宅と職場が同じなので、自分の好きな仕事を負担なくできる環境があります。しかも、旅行に来た人に楽しんでもらうことで、地元に貢献できる喜びがあります。セネガルで出会った理想の暮らし、生き方を香川で実現できていますね。

(編集後記)
お話を伺っていた日、夕方に若宮さんの息子さんたちが帰宅。今日こんな風だったよ、と一生懸命に話す息子さんを抱きしめて、うれしそうに話を聞く若宮さんが印象的でした。やりたいことを叶える場所が地元だった、と自然に高松にUターンした若宮さんですが、高松という町のサイズ感や空気が、よりその暮らしを充実させていることがうかがえました。日々あれが欲しい、これが無いと思ってしまいがちですが、すでに人は、必要十分に幸せなのかもしれません。(文・写真=小林繭子)

 

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若葉屋
高松の中心市街地から徒歩15分、閑静な住宅街にあるアットホームなゲストハウス。
地元出身のオーナー・若宮さんがうどんめぐりや島旅など、一人ひとりに合った旅の相談に乗ってくれます。
ファミリールームもあり、小さなお子さま連れの旅にもおすすめです。
ホームページ:https://wakabaya.main.jp/

住所:香川県高松市観光町603-1 
電話番号:070-5683-5335
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